CBSソニーの営業から企画制作に移籍しスランプに陥っていたとき、送られてきたカセットテープに吹き込まれた歌声に惹き込まれる……
松田聖子の発掘、両親の説得、デビューからヒットに至る、プロデューサー自身による回想録。
若松宗雄・著 『松田聖子の誕生』 (Amazon.co.jp)
1970−80年代のレコード会社の営業スタイルやアイドル歌手の発掘、デビュー時の売り込みの構図など、当事者にしか描けない情景が活写されているのですが、眼を引くのは、筆者自身がスカウトしてセカンドシングル『青い珊瑚礁』のアレンジに起用し、以後の松田聖子作品に深く関わるようになる故・大村雅朗への言及。
卓越した音楽センスへの称賛のみでなく、同じ福岡県出身の松田聖子のメンター、ファシリテーター役を担っていた挿話も明かされています。
本書にはくま井ゆう子さんのくの字も出てこないのですが、別の書籍に、くま井さんのデビュー当時、所属するSMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)の社長になっていた若松宗雄から、 直々に大村雅朗がプロデューサーとして指名されたとの証言があります。
本書に散りばめられたエピソードをフィルターにしてみると、若松宗雄がくま井さんのバックに大村雅朗を据えた意味 ― 松田聖子の黄金時代をつくりあげた張本人たちが、くま井さんという才能にどれだけ魅入られ、どれだけ本気で推していたか ― が見えてくる気がします。